2021年日本初上演!『Le Fils 息子』の感想 ※ネタバレ有り

「Le Fils 息子」が8月30日から東京・東京芸術劇場 プレイハウスで開幕。その後、福岡・高知・石川・新潟・宮崎・長野・兵庫の順に上演されました。日本では初上演の作品です。とても素晴らしい舞台だったので、舞台の内容とともに感想を残しておこうと思います。

出演者

二コラ(息子)岡本圭人
アンヌ(母)若村麻由美
ソフィア(再婚相手)伊勢佳世
医師浜田信也
看護師木山廉彬
ピエール(父)岡本健一

開催日程

開催場所開催日程
東京・東京芸術劇場 プレイハウス 2021/08/30~2021/09/12
福岡・北九州芸術劇場 中劇場2021/09/17~2021/09/19
高知・高知市文化プラザ かるぽーと 大ホール2021/09/22~2021/09/23
石川・能登演劇堂2021/09/26
新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場2021/09/29~2021/09/30
宮崎・メディキット県民文化センター 演劇ホール2021/10/03
長野・まつもと市民芸術館 主ホール2021/10/09~2021/10/10
兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール2021/10/14~2021/10/17

作品について

脚本:フロリアン・ゼレール

『Le Fils 息子』は、『La Mere 母』『Le Pere 父』に続く「家族三部作」の一つ

2018年にラディスラス・ショラーの演出によってパリにあるシャンゼリゼ劇場で初演。フランス最高位の演劇賞「モリエール賞」で最優秀新人賞を受賞。この高い評価を受け、世界13ヶ国で上演されるほど絶賛されている作品。今年2021年に日本では初めて上演。

あらすじ

17歳の二コラは難しい時期を迎えていた。

両親の離婚により、家族が離れ離れになってしまったことにひどいショックを受けて動揺し、何に対しても興味が持てなくなってしまっていた。

嘘を重ねて学校にも行かずに日がな一日、目的もなく一人で過ごしていたところ、学校を退学になってしまう。

父親は新しい家族と暮らしていたが、母親から二コラの様子がおかしいことを聞き、何とか彼を救いたいと、離婚後に距離を置いていた息子と、向き合おうとする。

生活環境を変えることが、唯一自分を救う方法だと思えた二コラは、父親と再婚相手、そして年の離れた小さい弟と一緒に暮らし、新しい生活をスタートさせるのだが。

悩み、迷い、傷つきながら、自分を再発見していく絶望した若者の抒情詩。

舞台『Le Fils 息子』公式サイト|東京芸術劇場

感想

『Le Fils 息子』を観に足を運んで良かったと心から思える作品でした。
二コラ役の岡本圭人さん。難しい役所だったと思いますが、この作品の世界観にぐっと引き込むほどの魅力的な演技でした。


二コラは両親の離婚の影響で興味を示さなくなり、うつ状態に陥っています。そのため、舞台上での二コラは情緒不安定でした。爪を噛んだり、貧乏ゆすりをしたり、挙動不審になったり。精神が安定していない様子がとてもリアルに感じました。
また、二コラの「言いたいことはあるのにどんな言葉で話せば良いのかわからなくなる」、「話したいことがあるけど、諦めて自己解決しようとする」、「気持ちにエンジンがかかると思っていることを勢いで言ってしまう」、「勢いで放ってしまった言葉に後悔する」。私自身もニコラと同じような感情になったことがあります。なので、共感できる部分がたくさんあり、観劇中は感情移入して観ていました。気付けば息を止めていたくらい、作品の世界に入り込んでしまいました。

シリアスな作品ではありますが、家族愛で溢れるシーンもちろんありました。
ピエールが結婚式のときに披露したダンスが面白かった、という話からピエールと二コラの親子が2人そろってお尻を振りながら踊るシーン。とても微笑ましい1シーンでした。楽しそうに笑い合っている親子の雰囲気、ピエールと二コラがそっくりだと笑い合う2人。実の親子(岡本親子)での演技というのも相まってとても仲の良い家族、素敵な関係だと感じられる瞬間でした。

しかし、この後のソフィアの何気ない一言をきっかけに二コラの目つきが変わってしまいます。

舞台上の演出ももちろんあります。ですが、二コラの目から伝わるものがあり空気がガラッと変わるのが分かりました。あの楽しそうな空気を一気に変えてしまった二コラを演じる岡本圭人さん、感激しました。

そして、物語の後半。

精神病院から出て、自宅に戻った二コラ。二コラの様子がおかしいのは言葉や表情から読み取ることができました。情緒不安定でなかなかうまく伝えられなかった二コラが、感謝の気持ちや楽しさや嬉しさを言葉で伝えていること。今まで出来なかったことができるようになっている、新たに家族そろって再出発できる、と思ったのも束の間でした。

お風呂に入るために部屋を出た二コラ。しばらくすると銃声が聞こえました。音を聞いて二コラがどのようになったのかを理解した時には涙が自然と溢れてきました。やっぱりその道を選んでしまったのね、と。

二コラが覚悟していたからこそ、今まで言えなかったことを家族に伝えていたのだ。そう思うと、涙が止まりませんでした。

また、二コラを演じる岡本圭人さん自身が優しい性格であることを知っているからこそ、二コラとの性格がリンクして感情が溢れてしまいました。


私たちは大事なものを失ってから気付くことが多いです。しかし、失ってからでは何事も手遅れなんですよね。
親が子に対して抱く理想像が子に対しては相当な重圧で、それに対して苦しんでるにも関わらず話を聞こうとせずに こうあるべきだって押し付けるのは良くないなと改めて思いました。

ピエールが二コラのために、と思って新しい学校に行かせたり、話を聞いたり(ただし、二コラの本心を聞くことはできていない)。親として正しいことをしているのは間違いがありません。ですが、二コラの立場から考えるとそれを望んでいるわけではない。人の心は見えないからこそ、すり合わせという気持ちを寄り添わせることが重要になってくるのだと感じました。


物語も終盤に差し掛かったころ、父のピエールは”ニコラの将来”に関する幻想を見ます。
ニコラがピエールのもとに現れ、彼女の話やイギリスでの生活の話、出版した本の話を楽しそうに話す姿があまりにも微笑ましかったです。そのため、ふとこのシーンは「夢」なんだと思うととても心苦しかったです。

うつ状態ではない、明るく元気なニコラはとてもキラキラした姿で印象的でした。
こんな未来が待っていたはずなのに。どんな選択をしていたら良かったのだろうか。

そんな風に後悔するピエールの姿が心に刺さりました。

誰もが間違った選択をしていたわけではなく、それぞれがそれぞれの立場で正しいと思う判断をしていました。

親として子を理想の道へ導くこと。子が望んでいることに対して手を差し伸べてあげること。人に迷惑をかけないように気遣って生きようとすること。悩んでいる人に対して理解しようと優しく接すること。

シリアスな内容で、とても考えさせられる作品でした。

『Le Fils 息子』カンパニーの皆様。素敵な舞台をありがとうございました。そして、お疲れ様でした!

公式サイト

※2022/01/06 ホームページが閉鎖されました。